日本の失敗
「第二の開国」と「大東亜戦争」
松本 健一 岩波現代文庫
日本の失敗―「第二の開国」と「大東亜戦争」 (岩波現代文庫)
- 作者: 松本健一
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2006/06/16
- メディア: 文庫
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本書は、何故日本があの愚かな選択,すなわち大東亜戦争をしたのかについて迫った傑作です。
戦前の大事件である2・26事件と満州事変の背景とその後の処理が後の開戦に繋がったこと,そしてその背景には「統帥権干犯」という軍部にとっての魔法の杖があり,そして、「統帥権干犯」を以て軍部の暴走を許した背景には鳩山一郎や犬養毅らの政党政治家の責任があり,自ら政党政治を崩壊させてしまったことを,まず明らかにしてます。そのうえで、松本は開戦に到るには当時の日本人の「精神的鎖国」があったと看破します。「八紘一宇」や「皇道」,「大東亜共栄圏」という言葉のもと,皇国史観というおよそ他国からすれば理解できないイデオロギーに国民が酔いました。
すなわち,日本の皇室には世界的普遍性があり,日本すなわち皇室を世界化しようというイデオローグがあった,そして,松本はそれには西田幾多郎を中心とする京都学派の哲学があったことを明らかにします。彼らの用いた「世界史の哲学」という用語は戦争によって形成されるであろう新たな世界史の中での日本の位置づけようとした議論でした。
そして松本は,日清戦争,日露戦争,大東亜戦争における天皇の開戦の詔を比較して決定的な違いがあることを明らかにします。それは日清,日露のそれには「国際法を遵守」してという趣旨の文言があるが,大東亜戦争のそれにはそのような文言が一切ないことでした。このことが、まさに日本が国際社会の視点を持っていなかったことを明らかにしています。その結果が,『戦陣訓』の「生きて虜囚の辱を受けず」との思想と相まって,軍人・民間人の多量の無駄な死と捕虜の虐殺に繋がっていきました。
内容紹介
日本はなぜ無謀な戦争に突入し敗れたのか―ヨーロッパ諸国から同時期に文明国と認められた日米宿命の対立の根底には、中国問題があった。その端緒「対支二十一ヵ条の要求」から敗戦に至る軍人、政治家、思想家、ジャーナリストたちの言動を検討し、誤りを摘出する。多彩な登場人物が織り成す壮大な思想のドラマは論争を呼ぶ。
日本はなぜ無謀な戦争に突入し敗れたのか――
副題の「第二の開国」とは,明治維新期を「第一の開国」とした,今次大戦期のことである.ヨーロッパ諸国から,日本とアメリカが「文明国」と認められたのは,ほとんど同時期であった.1898年の米西戦争と1905年の日露戦争にそれぞれが勝利したからである.やがて,この日米はお互いを仮想敵国と見做すことになるが,根底には中国問題があった.
その端緒となった「対支二十一カ条要求」から敗戦にいたる日本の軍人,政治家,思想家,ジャーナリストたちの言動を検討し,どこが誤っていたかを摘出する.北一輝,大川周明,石橋湛山,吉野作造,犬養毅,中野正剛,石原莞爾,板垣征四郎,出口王仁三郎,斎藤隆夫,中江丑吉,吉田茂,幣原喜重郎,西田幾多郎,吉川英治,花田清輝,竹内好,保田與重郎……多彩な人物が登場する思想のドラマを読み進むうちに,大東亜戦争の性格,南京大虐殺,日本国憲法9条問題,西田哲学のイデオロギー等々の諸問題が次々に解明される.
本書は,現在の日本の政治・思想状況への痛烈な批判でもあり,個々の論点のみならず,著者の歴史観をめぐっても論争が起こることを期待したい.
著者紹介
松本 健一(まつもと・ けんいち)
1946年群馬県に生まれる.東京大学経済学部卒業.麗澤大学教授,評論家.著書『竹内好「日本のアジア主義」精読』『大川周明』『竹内好』(岩波現代文庫)『評伝北一輝』(全5巻,岩波書店),『近代アジア精神史の試み』『白旗伝説』『砂の文明・石の文明・泥の文明』『民族と国家』ほか多数.
目次
日米の仮想敵国
発端としての「対支二十一ヵ条」
アジアの帝国主義
「日米衝突」のシナリオ
満州事変というファシズム
世界戦争のプロローグ
「侵略」という認識
統帥権干犯の思想
軍部の独裁化をめぐって
精神的鎖国としての国体イデオロギー
日本の「世界史」
大東亜戦争の「開戦の詔勅」をめぐって
時代思潮としての「死の哲学」
外の力
戦犯とは何だったのか
あとがき
解説(竹内 洋)
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参考図書
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