社会的ひきこもり
終わらない思春期
斎藤 環 PHP新書
本書は、ひきこもり研究と治療の第一人者である斎藤環氏の読みやすくてまとまった入門書にして実践の書です。
理論編と実践編にわかれます。理論編では、ひきこもりの実態について様々な角度から検討してます。精神医学で扱う症状、強迫神経症、対人恐怖症、退却神経症などとの異同を見ながらひきこもりの特徴が明らかにされてます。ひきこもりがそれ自体外傷体験としてさまざまな精神障害状態を引き起こしていくことが述べられています。
そして、ひきこもりを「ひきこもりシステム」として捉えることが提唱されてます。個人、家族、社会の各システムが相互に交わらず連動することもなく、相互に働く力が各システムのなかでストレスに変換される。このストレスが悪循環を引き起こしてひきこもりを強め長期化させていくと述べてます。
実践編では、ひきこもりの「治療」について具体的にその方法が示されてます。ここで「ひきこもりシステム」の考え方が有効になります。システムをコミュニケーションと捉えるとわかりやすいです。当事者の自分とのコミュニケーション、家族と当事者とのコミュニケーション、家族と社会とのコミュニケーションと捉えて、これらはすべて連動しながら働いているのですが、ひきこもりではこのコミュニケーションが全体として歪んでしまっています。従って、ひきこもりの治療とはコミュニケーションの回復に主眼が置かれます。
特にポイントとなるのが、当事者と家族との深いコミュニケーションの回復です。説教、正論、叱咤激励などの一方的な関わりは百害あって一利もないと言えます。各自が自律的な判断と行動の権利を持つ個人として尊重されることが前提となります。受容と会話が基本です。状況に応じた対処の仕方が具体的に示されることです。
ひきこもりの治療とは、人が人として成長していくことを彼、彼女に関わる者がサポートしていくことなのだと思います。それは簡単なことではないが、サポートする者の成長もともなうのだと思います。人の成熟についての精神分析的な意味にも触れられていて興味深いです。
理論編については『ひきこもりはなぜ「治る」のか?』、実践編については『ひきこもり救出マニュアル』において詳細に展開されてます。
内容紹介
三十歳近くなっても、仕事に就かず、外出もせず、時に何年も自分の部屋に閉じこもったまま過ごす青年たち。今、このような「ひきこもり」状態の青少年が増えている。「周りが甘やかさず、厳しく接するべき」といったお説教や正論では、深い葛藤を抱えた彼らの問題を、けっして解決することはできない。本書では「ひきこもり」を単なる「個人の病理」でなく、家族・社会から成る「システムの病理」として捉える視点から、その正しい理解と対処の方法を解説する。
著者紹介
斎藤 環(さいとう・たまき)
1961年、岩手県生まれ。精神科医。筑波大学医学研究科博士課程修了。爽風会佐々木病院診療部長。専門は思春期・青年期の精神病理学、病跡学、ラカンの精神分析、「ひきこもり」の治療・支援ならびに啓蒙活動。文学、映画、美術、漫画など幅広いジャンルで批評活動を展開。著書に『社会的ひきこもり』『心理学化する社会』『家族の痕跡』『母は娘の人生を支配する』『関係の化学としての文学』『「社会的うつ病」の治し方』ほか多数。
目次
第1部 いま何が起こっているのか―理論編
1「社会的ひきこもり」とは
2 社会的ひきこもりの症状と経過
3 さまざまな精神疾患に伴う「ひきこもり」
4 社会的ひきこもりは病気か
5 「ひきこもりシステム」という考え方
第2部 「社会的ひきこもり」とどう向き合うか―実践編
1 正論・お説教・議論の克服
2 家族の基本的な心構え
3 治療の全体的な流れ
4 日常の生活の中で
5 家庭内暴力の悲しみ
6 治療そして社会復帰へ
7 「ひきこもり」と社会病理
おわりに
ひきこもり対応フローチャート
あとがき
参考文献
参考図書
ひきこもりはなぜ「治る」のか?―精神分析的アプローチ (ちくま文庫)
- 作者: 斎藤環
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大人のひきこもり 本当は「外に出る理由」を探している人たち (講談社現代新書)
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