精神分析入門(上)
[訳]高橋義孝
下坂幸三 新潮文庫
本書は、1915年から17年までウィーン大学で一般向けに行われた講義の内容が記録されたものです。講義記録が纏められた本だけあって、他のフロイト本よりも比較的平易な文章で綴られていています。
最初の方は、あまりにも慎重に精神医学を学ぶに当たっての注意事項が続き、退屈で、のっけから放り出しそうでした。それでも講義が進むに従い、じわじわと有効にその前提が論者と読者をバックアップします。あえて初めからつまらなく、学ぶ者の意欲をそぐような精神医学の欠点から述べるフロイトの勇気と困難な研究の道のりを実感させられます。そして、夢や錯語について、それぞれにこれだけの臨床例と分析、聞く者を納得させるだけの構成には驚きました。
各項目の結論や決め手となる数語については、強調ルビが振ってあり、一度読んで理論が頭に入れば、後で強調部分だけ読み返し、実際に役立てる工夫もあり、助かります。また、項目ごとに知りたいことが簡潔に説明されてるものではないのですが、見事な翻訳者の力量、フロイトの論調と分析内容の見事さ、重要箇所の強調ルビのおかげで、読み進めることができます。
内容紹介
精神病の命名と分類に終始していた伝統的精神医学に対し、自由連想の採用という画期的方法によって症状の隠された意味を探る精神分析を創始して、二十世紀文学にも多大な影響を与えたフロイト。本書は、1915年から17年までウィーン大学で一般向けに行われた講義の記録であり、明快な論旨の進め方、啓蒙を目的とした対話的手法で書かれた最適の入門書である。
著者等紹介
(1856-1939)1856年モラヴィアのフライベルク(現チェコ)生まれ。父は貧しいユダヤ羊毛商だった。ウィーン大学卒業後、病院勤務や大学講師を経て、ウィーンで開業医となる。人間の心の大部分は無意識の領域であることを発見、従来の催眠治療に代わる「自由連想法」による治療技術としての精神分析を確立。その理論は社会的に反発も多かったが、徐々に浸透し、20世紀前半の思想界、文学界等に与えた影響は測り知れない。主な著書に『夢判断』『精神分析入門』など。ナチスを逃れ亡命先のロンドンで1939年に病死。
高橋義孝(たかはし・よしたか)
(1913-1995)東京生れ。東大独文科卒。九大、名大、桐朋学園大等で独文学教授を歴任。翻訳の他、評論、随筆でも高い評価を得た。『森鴎外』(読売文学賞)『現代不作法読本』『文学研究の諸問題』『近代芸術観の成立』等著書多数。
下坂幸三(しもざか・こうぞう)
(1929-2006)1929年東京生れ。順天堂医学専門学校卒。順天堂大医学部精神医学教室に勤務の後、下坂クリニックを開設。精神医学関係の専門著訳書多数。
目次
第二講 錯誤行為
第三講 錯誤行為(つづき)
第四講 錯誤行為(結び)
第六講 夢判断のいろいろな前提と技法
第七講 夢の顕在内容と潜在思想
第八講 小児の夢
第九講 夢の検閲
第十講 夢の象徴的表現
第十一講 夢の作業
第十二講 夢の分析例
第十三講 夢の太古的性格と幼児性
第十四講 願望充足
第十五講 不確実な点と批判
参考図書