ヒトラーの時代
ドイツ国民はなぜ
独裁者に熱狂したのか
池内 紀 中公新書
本書の著者は元東大教授でドイツ文学者の池内紀氏ですが、2019年(令和元年)8月に78歳で鬼籍に入られました。後書きを書かれたのが本年5月ですから最後の著作となります。
日本では、ナチス・ドイツ関係の著作・文献は沢山ありますが、本書は全体像を歴史学や政治学の立場ではなく、文学者の立場で捉えています。ドイツの名優「マリーネ・デートリヒ」や「ジュタリーン文字〈ナチスが好んだ書体)P134」や「顔の行方(ヒトラーの)P237」などの文学者的視点も多々あります。
また、再認識できたことは、1、首相・全権委任法で政権を握った1933年時点でヒトラーが44歳・ゲーリング40歳・ゲッペレス36歳・ヒムラー33歳と、大国の指導者としては相当に歳が若かったこと。2、迫害され始めたユダヤ人のための「亡命ハンドブック」がユダヤ系出版社から1938年に出版されていたこと。3、政権維持・宣伝のためによるラジオの普及で、定価を8分の1に下げ、70%の家庭に普及させたこと。朝夕、ワーグナーの音楽がナチスの宣伝に活用されたこと、などです。
他の本にもある、第一次大戦後の600万人の失業者や天文学的インフレ、ワイマール憲法の悪用で正式の選挙で政権獲得、共産党の躍進に対する企業家の不安につけこみ、アウトバーーンの3千キロの延長(失業対策)、ヒトラーの「独特の練習された演説法」、「夜の党大会でのタイマツや照明の効果」、ユダヤ人を敵にしたてて、600万人もの虐殺・餓死、・・なども分かりやすく記述されており、ナチスの全体像をつかむのに適してると思います。
ただ、本書に対して細かい批判がありますが、気にするほどではありません。氏のご冥福を祈ります。
内容紹介
泡沫政党だったナチスの党首アドルフ・ヒトラーは、圧倒的人気を獲得し、権力の座へ駆け上がった。独裁制はなぜかくも急速に実現したのか。ドイツ国民がそれを支持した理由は何か。アウトバーン建設、フォルクスワーゲン(国民車)の生産、労働環境の改善、社会福祉の拡充といった巧みな施策、そしてゲッベルス主導のプロパガンダ、ゲシュタポによる弾圧――。さまざまな角度から、ヒトラーを独裁者に押し上げた「時代」を描く。
引用元:中公新書
著者紹介
池内 紀(いけうち・おさむ)
1940年~2019年。兵庫県姫路市生れ。ドイツ文学者。翻訳、評論をはじめ、エッセイ、人物列伝、演芸・歌舞伎論など、執筆範囲は多岐にわたる。訳書に『カフカ短篇集』、『ファウスト』(毎日出版文化賞)、著書に『二列目の人生』、『恩地孝四郎』(読売文学賞)、『海山のあいだ』(講談社エッセイ賞)などがある。
目次
封印された写真―はしがきにかえて
1(消された過去
演説家ヒトラー―デビューのころ
カリスマの誕生
独裁制の成立
ペンと権力
分かれ道)
2(「歓喜力行」
国民車(フォルクスワーゲン)の誕生
国民ラジオの威力
ゲシュタポの誕生
ヒトラーとマイクロフォン
ジュタックリーン文字
制服国家
独裁制の完成)
3(ナチス式選挙
強制収容所第一号
民族共同体
「長いナイフの夜」
亡命ハンドブックス句
平穏の時代
顔の行方)
小市民について―むすびにかえて
参考図書
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